3、家族信託と成年後見、どっちが得? 10年間で比較

家族信託の見積もりを見て、たぶん最初に思うのはこれですよね。

「高くない?」

私も思いました。というか、最初に専門家へ相談したとき、概算で「ご家庭の場合だと、だいたい100万円くらいですね」と言われて、内心ひるみました。アパート2棟分の登記もあるからと。その場では「なるほど」と平静を装いましたが、帰りの電車で「100万か……」とずっと電卓を叩いていました。

一方の成年後見は、申し立てだけなら数万円で始められると知って、正直「じゃあ後見でいいんじゃないか」と一度は傾きました。並べたら、後見のほうが圧倒的に安く見えたんです。

でも、その電車の中で後見のほうも最後まで計算してみて、考えが逆転しました。

家族信託は「一回払い」。成年後見は「毎月払い続ける、しかも途中でやめられないサブスク」。料金の構造が根本から違うんです。だから初期費用じゃなくて、終わるまでの総額で比べないといけない。

うちは父がアパートを2棟持っているので、私はこの計算を下記にシュミレーションしました。

目次

まず、お金の出ていき方が真逆

家族信託は、最初にまとめて払う

家族信託の費用は、ほぼ全部が契約のときにかかります。専門家に頼んだ場合、だいたいこんな内訳です。

  • 専門家へのコンサル報酬:信託する財産の1%くらい(最低でも30万円前後に設定している事務所が多い)
  • 契約書の作成、公正証書にする手数料:あわせて10万円前後
  • 不動産がある場合の登記費用(登録免許税):固定資産税評価額の、土地0.3%・建物0.4%
  • その登記をやってもらう司法書士への報酬:6万〜15万円くらい

合計で30万〜100万円。財産の額と、不動産があるかどうかで変わります。

ここが大事なんですが、契約したあとは、追加費用が基本かかりません。財産を管理する家族(受託者)は無報酬でやるのが普通なので、認知症の期間が5年でも15年でも、お金は最初の一回きりです。

成年後見は、毎月ずっと払う

後見の初期費用は、確かに安いです。申し立ての手数料や切手で1万円ちょっと、診断書が数千円、(必要なら)鑑定費用が5〜10万円。書類作成を専門家に頼んでも15万〜25万円くらい。

問題はそのあとです。司法書士や弁護士が後見人に選ばれると、毎月の報酬が発生し続けます。目安はこのくらい(東京家庭裁判所の基準)。

管理する財産月額
〜1,000万円2万円
1,000万〜5,000万円3〜4万円
5,000万円〜5〜6万円

しかも不動産の売却みたいな特別なことをすると、数十万円の追加報酬が別でかかることもあります。

そして一番大事なこと。後見は、本人の判断能力が回復しない限り、本人が亡くなるまで続きます。家族が「もうやめたい」と思っても、やめられません。月3万円なら年36万円。これが10年、15年と続いていきます。

実際に計算してみた(資産パターン別)

前提:認知症発症後を10年として、後見は専門職が付いたケース、信託は専門家に依頼。あくまで概算です。

パターン①:預金2,000万円だけ(不動産なし)

  • 家族信託:30万〜40万円(最初の一回だけ)
  • 成年後見:月3万円×120か月=360万円+申し立て関連 → だいたい365万〜385万円

差し引き、信託のほうが330万円くらい安い計算です。ただ、このパターンは正直、銀行の代理人届とか全銀協の指針ルートで何とかなる可能性もあるので、「絶対に信託」とは言いません。

パターン②:自宅(2,000万円)+預金1,500万円

  • 家族信託:60万〜65万円(登記費用が乗るぶん①より高い)
  • 成年後見:月3〜4万円×120か月=360万〜480万円。さらに施設費用のため自宅を売るなら、追加報酬40〜70万円+家庭裁判所の許可手続き(居住用不動産の売却には許可が必須で、下りないこともある) → だいたい400万〜575万円

差し引き340万〜510万円、信託の勝ち。しかも信託なら、自宅をいつ売るかを家族の判断で決められます(裁判所の許可が要らない)。「親の施設代のために実家を売りたいのに、許可が下りなくて動けない」という後見あるあるを避けられます。

パターン③:アパート2棟+自宅+預金(うちに近いケース)

これがうちの想定に近いパターンです。仮に全部で8,000万円分くらいとします。

  • 家族信託:コンサル報酬が財産の1%で80万円前後、契約書・公正証書で10〜15万円、2棟+自宅の登記費用が20万円前後、司法書士報酬15万円くらい → だいたい125万〜130万円(最初の一回だけ)
  • 成年後見:月5〜6万円×120か月=600万〜720万円。アパートみたいな収益不動産があると「管理が大変」として追加報酬が乗る可能性もあり、さらに数百万円。そして何より、アパートの経営判断(修繕・建て替え・売却)は後見人にはできないので、資産活用が実質止まります → 総額630万〜1,000万円超+止まったぶんの逸失

差し引き500万〜900万円、信託の圧勝です。でも、うちにとって本当に大きいのは金額じゃありませんでした。信託なら子の判断でアパートを回せる。後見だと、家賃収入は守られても、アパートという「事業」が止まる。収益不動産がある家にとって、これは費用の問題というより、経営の問題なんですよね。

まとめると

資産パターン家族信託(10年)成年後見(10年)
①預金2,000万30〜40万円365〜385万円約330万円
②自宅+預金3,500万60〜65万円400〜575万円340〜510万円
③アパート2棟+自宅+預金8,000万125〜130万円630〜1,000万円超500〜900万円

発症後が15年なら、後見側はさらに1.5倍です。「信託の100万は高い」という最初の直感は、比べる相手を間違えていただけでした。

正直に書くと、冒頭で書いた帰りの電車の中で、私はパターン③をスマホの電卓で叩いていて、後見の「月5万円×12か月×10年=600万円」が画面に出た瞬間、思わず声が出そうになりました。100万円にひるんでいた自分が、その6倍以上のコースに片足を突っ込みかけていたわけです。しかもそれは「何もしない」を選んだ結果として、勝手に始まるコースだった。家族信託の100万円が高いんじゃなくて、何もしないことのほうがずっと高くつく。電車を降りる頃には、最初に感じた「高い」が、きれいに消えていました。

これは後日、父に費用の話をしたときに私自身が言ったことでもあります。一回で済むか、ずっと払い続けるか。その違いでした。

お金以外で、もっと効く違いが3つあった

総額だけでも答えは出ているんですが、実際に親の財産を任せる立場で考えると、お金より効く違いが3つありました。

1. 誰が管理するか。 信託は、契約で受託者を家族が決めます。後見は、家庭裁判所が選ぶので、希望が通るとは限らない。父の通帳を、会ったこともない専門職が管理する——これを父が望むか、と考えると、答えははっきりしていました。

2. 財産を動かせるか、守るだけか。 信託は、決めておいた範囲で売却も修繕も買い替えもできます。後見は本人のための「維持」が原則で、家族のための支出や、節税目的の動きはできません。

3. いつ選べるか。 後見は、判断能力が落ちた「あと」に使う制度。信託は、判断能力がある「いま」しか契約できない制度。つまり、いまは両方選べるけど、時間が経つと後見しか選べなくなる。この一方通行が、結局いちばん大事なところでした。

公平に書くと、後見のほうがいい家もある

ここまで信託寄りに見えると思うので、正直に書きます。後見が正解の家も、ちゃんとあります。

  • 財産が少額(数百万円規模)で不動産もない → 後見の報酬負担も小さく、信託の初期費用が見合わない
  • 信頼して任せられる家族がいない、きょうだいの仲が良くない → 第三者の専門職と裁判所の監督があったほうが安全
  • 入院や施設入所の契約など、身上監護の代理権が必要 → 信託は財産管理の制度なので、ここは後見にしかできません
  • もう判断能力が失われている → この場合は、そもそも後見しか選べません

逆に言うと、これに当てはまらなくて、信頼できる家族がいて、守りたい不動産がある家なら、後見を「あえて選ぶ」理由はあまりない、というのが私の調べた結論でした。

うちはいくらになるのか、を確かめる

ここまでの数字は、あくまでモデルケースです。実際の費用は、どの財産を信託に入れるか(全部入れる必要はないです)、不動産の評価額、事務所の料金体系でけっこう動きます。

確実なのは、自分の家のケースで概算を出してもらうことです。無料相談で財産の構成を伝えれば、初期費用の概算と、どの財産を信託に入れてどれは入れなくていいか、くらいはその場で分かります。うちみたいにアパートがあると、ローンや登記の絡みもあるので、素人だけで決めるのは無理だなと思いました。

それと、ここまで読んだあなたの次の壁は、たぶん費用じゃなくて「親にどう話すか」ですよね。無料相談は親と一緒に行くのが理想ですが、まず子だけで話を聞いて作戦を立てる、という使い方もできます。

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【内部リンク(大きめカード)】→ A記事「家族信託は「説得」しない。決める権利を親に残したら、扉が開いた」 【内部リンク】凍結で具体的に何が止まるのか → C記事

まとめ

  • 信託は「一回払い切り」、後見は「やめられないサブスク」。初期費用じゃなく10年総額で比べる
  • 預金2,000万でも差は約330万円。アパートがあると差は500万〜900万円+経営の問題になる
  • 後見は後見人を裁判所が選び、財産は維持一辺倒、本人が亡くなるまで続く
  • ただし財産が少額・任せられる家族がいない・身上監護が必要、なら後見が正解
  • いまは両方選べる。時間が経つと後見しか選べない。比べられること自体が「まだ間に合う」証拠

「一回で済むか、ずっと払い続けるか」。うちはまだ契約していませんが、この比べ方を知ってから、見積もりの100万円が高く見えなくなりました。

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