成年後見制度の改正(2026年6月)|家族信託との比較

2026年6月17日、成年後見制度を大きく変える改正民法が成立しました。

家族信託について調べてきた私にとって、これは見過ごせないニュースでした。なぜなら、これまで「家族信託のほうがいい」と言われてきた根拠の一つである「後見は一度始めると一生やめられない」が、変わるからです!

「じゃあ、もう家族信託じゃなくて、後見でいいんじゃないの?」

私もそう疑問におもいました。

しかし、改正の中身をちゃんと読んだ結果、収益不動産を保有している私たちはやっぱり家族信託で備える、という結論は変わりませんでした。今日はその理由を、改正の内容とあわせて書きます。

最初に大事なことを2つ。この改正は、まだ始まっていません(施行は2028年度中の見込み)。そして私は専門家ではないので、制度の詳細は必ず公的情報と専門家に確認してください。その上で、当事者として調べたことを共有します。

目次

何が変わるのか?

今回の改正は、これまで「使いにくい」と言われ続けた成年後見制度を、大きく作り変えるものです。主な変更は4つです。

1. 「終身制」がなくなる (これが最大の目玉)

今までの後見は、一度始めると本人が亡くなるまで原則やめられませんでした。「実家を売るためだけに後見を使ったのに、売却後も一生続く」という、いわゆる終身制です。

改正後は、目的が達成されれば途中で終了できるようになります。遺産分割や不動産売却のためだけに一時的に使う、いわゆる「スポット利用」ができるようになる、ということです。

2. 「後見・保佐・補助」の3類型が「補助」に一本化される

今は判断能力の程度で3つに分かれていて、特に「後見」だと後見人にほぼ全部の代理権が渡っていました。

改正後は最も本人の自己決定を尊重する「補助」に一本化され、本人の意思を出発点にする仕組みになります。

3. 権限が「オーダーメイド」になる

これまでは後見人に包括的な権限が一律で渡っていましたが、改正後は「実家の売却契約だけ」「特定の口座の管理だけ」といった形で、必要な行為だけに限定して権限を設定できるようになります。「できることは自分で続けて、難しいことだけ手伝ってもらう」が可能になります。

4. 後見人を交代しやすくなる・報酬が適正化される

これまで「相性が悪い」だけでは交代できませんでしたが、「本人の利益のために特に必要」なら交代できるようになります。報酬も、財産額だけで一律に決める方式から、実際の仕事の内容を考慮する方式に見直されます。

どれも利用者にとって良い改正だと思います。終身制の廃止なんて、これまで後見をためらってきた家族にとっては朗報です。

「じゃあ後見でいいのでは?」

これを読んで、私はいったん考えました。

後見が「終われる」ようになって、権限も必要な分だけになって、報酬も適正化される。だったら、わざわざ30万〜100万円かけて家族信託を組む意味は薄れるんじゃないか、と。

特にうちは父がアパートを2棟持っているので、家族信託の費用も安くありません。「改正後の後見で十分なら、そっちのほうが初期費用はずっと安い」と感じました。

でも、改正の内容を最後まで読んで、決定的な一点に気づきました。

それでも家族信託を選ぶ理由 | 後見は「失った後」、信託は「失う前」

改正で後見がどれだけ使いやすくなっても、変わらない大前提があります。

成年後見は、本人の判断能力が低下した「後」に使う制度だということです。

一方、家族信託は、本人の判断能力がある「うち」にしか契約できない制度です。

この順番は、改正後も一切変わりません。実際、改正のニュースを解説している司法書士や行政書士の多くが、口を揃えてこう言っています。「終身制が廃止されても、判断能力があるうちにできる家族信託や任意後見の重要性は失われない」と。

なぜか。具体的に、うちのケースで考えてみます。

アパート経営は、後見では「攻めの判断」ができない。

改正後の補助でも、補助人の役目は基本的に本人の財産を「守る」ことです。これは改正前と変わりません。つまり、空室を埋めるための思い切ったリフォーム、建物価値を上げる大規模修繕、タイミングを見た買い替えなど…。こうしたアパート経営に必要な「攻めの判断」は、補助人にはやはり難しい

家族信託なら、契約で決めておいた範囲で、子が父の代わりに経営判断までできます。「守る」だけの後見と、「経営を続けられる」信託。この差は、収益不動産がある家にとっては、改正後も決定的です。(アパート経営が止まる話の詳細はこちら )

「補助が始められる」こと自体が、判断能力の低下を前提にしている。

改正後のスポット利用は確かに便利ですが、それは「もう本人が単独では契約できない状態」になって初めて使うものです。つまり、補助のお世話になる時点で、父はもう自分でアパートの重要な契約ができない状態になっている。

家族信託は、その「できなくなる前」に、父が元気なうちに、父自身の意思で「この子に管理を任せる」と決めておく仕組みです。同じ財産管理でも、出発点がまるで違います。

私が別の記事でずっと書いてきた「決める権利を、最後まで親に残す」という考え方は、ここにもつながります。

家族信託は、父が自分で決められるうちに、自分の意思で備える方法。成年後見制度では、決められなくなった後に、裁判所と補助人に委ねる方法。改正で後見が使いやすくなっても、この「誰が、いつ決めるか」の違いは埋まりません。

改正で「家族信託」のメリットが減ることも

とはいえ、フェアに書きます。この改正で、「家族信託より成年後見制度のほうが合理的」になる場面は、確かに増えます。

たとえば、親に収益不動産がなく、財産も預金中心で、やりたいことが「相続のときの遺産分割」や「実家を一度売るだけ」といったケース。こういう「一回きりの手続き」のためなら、改正後はスポット利用で後見を使い、終わったら卒業する、というほうが、家族信託を組むより安くて早いかもしれません。

これまでは「終身制が嫌だから、単発の目的でも家族信託」という選択に意味がありましたが、改正後はその理由が薄くなる。だから、家族信託が向く家と、改正後の後見で十分な家の線引きは、よりはっきりすると思います。

うちのように収益不動産があって、継続的に積極的な財産管理が必要な家は、家族信託。財産がシンプルで単発の手続きが目的なら、改正後の後見も十分選択肢になる。どちらが上ということではなく、家の事情で変わる、ということです。

同時に「デジタル遺言」も導入された

今回の改正では、成年後見と一緒に「デジタル遺言(保管証書遺言)」も新しく作られました(施行は3年以内の見込み)。

これまで遺言は、全文手書きの「自筆証書遺言」か、公証役場で作る「公正証書遺言」が中心でした。改正後は、パソコンやスマホでテキストとして遺言を作り、法務局で本人確認をして保管してもらえるようになります。手書きの負担なく、紛失や改ざんの心配もなく、元気なうちに意思を残せる仕組みです。

これも、家族信託と同じく「判断能力があるうちに、自分の意思で備える」という発想の道具です。家族信託 (生きている間の財産管理) とデジタル遺言 (亡くなった後の財産の行き先) は、セットで考えると、親の財産をめぐる備えがかなり整います。

まとめ:「元気なうちの備え」は家族信託

  • 2026年6月、成年後見制度の改正民法が成立(施行は2028年度中の見込み。今はまだ現行制度)
  • 終身制の廃止、補助への一本化、権限のオーダーメイド化、交代・報酬の見直しで、後見は大きく使いやすくなる
  • ただし成年後見制度は依然として「判断能力が低下した後」の制度。家族信託は「低下する前」の制度。改正後も変わらない
  • アパート経営など「攻めの財産管理」が必要な家は、改正後も家族信託が有力
  • 財産がシンプルで単発の手続きが目的なら、改正後の後見 (スポット利用) も合理的な選択肢に
  • デジタル遺言も導入。家族信託とセットで「元気なうちの備え」を考えるとよい

改正のニュースを見て「後見が良くなるなら、まだ何もしなくていいか」と思った方へ。むしろ逆かもしれません。後見が使いやすくなるのは、あくまで「判断能力が低下した後」の話。そこに頼らずに済むように、親が元気な今のうちにできる備えを考えておく価値は、改正後も全く変わりません。

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