1、親のお金の管理が心配| 認知症のサインと、今だからできる備え

実家に帰ったとき、ふと、こんなものが目に入りませんでしたか。

  • 財布が、小銭でパンパンになっている
  • 冷蔵庫に、同じ調味料が3本ある
  • テーブルの上に、公共料金の督促状

「年のせいかな」と思いつつ、検索してこのページにたどり着いた——私も、同じ経験をした一人です。

うちは父が一人暮らしで、アパートを2棟持っています。

だから「もし父がお金の管理をできなくなったら」という不安は、人ごとではありませんでした。

一人暮らしだと、変化に気づく人が家にいない。次に帰ったときには、もっと進んでいるかもしれない。そういう焦りもありました。

最初に、この記事の立場をはっきりさせておきます。私は医療の専門家ではありません。この記事のチェックリストは、診断ではなく「専門のお医者さんに相談する目安」です。

気になることがあれば、必ず医療機関に相談してください。

その上で、3つのことを書きます。お金まわりに出やすいサイン、「年相応のもの忘れ」との違い、そして、医療と同じくらい大事なのに見落とされがちな「お金の備えの期限」の話です。

目次

なぜ「お金まわり」に最初のサインが出やすいのか

お金の管理は、日常の中で一番ややこしい作業の一つです。計算して、覚えて、判断して、段取りする。いくつもの脳の働きを同時に使います。

だから認知機能が落ち始めると、料理や会話より先に、お金まわりに変化が出ることが少なくないそうです。これは特別なことではなくて、誰にでも起こりうることです。

厚生労働省の研究班の推計だと、2022年の時点で認知症の高齢者は約443万人、その前段階とされるMCI(軽度認知障害)が約559万人。

2040年には、合わせて1,000万人を超えて、65歳以上の3割ほどになると見られています。

「うちの親に限って」ではなく、「どの家にも順番が来るかもしれない」という前提で、サインを知っておく意味はあると思います。

お金にまつわるサイン・チェックリスト

ここ半年から1年の、親御さんの様子で、当てはまるものを数えてみてください。

買い物・支払い

  • 財布が、いつも小銭で膨らんでいる(計算が面倒で、毎回お札で払うため)
  • 同じものを、何度も買ってくる(冷蔵庫に同じ食品・調味料が複数)
  • 値段を確かめずに買う、または、極端にケチになった

請求・手続き

  • 公共料金や税金の払い忘れ、督促状が届いている
  • ATMの操作に時間がかかる、暗証番号を間違えて止められた
  • 銀行や役所の書類が、開封されないまま溜まっている

管理・保管

  • 通帳・印鑑・カードを、よく探している
  • 「お金を盗られた」「誰かが抜いた」と、家族を疑うことがあった
  • お金の話になると、急に怒る、話をそらす

契約・被害

  • 必要なさそうな健康食品・リフォーム・保険などを契約していた
  • 知らない業者からの郵便物や電話が増えた
  • 「いい投資の話がある」といった誘いを、真に受けやすくなった

特に、アパートなど賃貸物件を持っている親御さんの場合は、上のサインに加えて「家賃の入金確認や、修繕の手配、確定申告が、最近あやしくなっていないか」も気にしてみてください。

経営の判断は、日常の買い物よりさらに複雑なので、早めに変化が出ることがあります。

「年相応のもの忘れ」との違い

とはいえ、誰でも年を取れば、もの忘れは増えます。一般に、加齢によるもの忘れと、相談を考えたほうがいい変化には、こんな傾向の違いがあると言われています。

年相応に多いもの忘れ相談を考えたい変化
体験の一部を忘れる(昼に何を食べたか思い出せない)体験そのものを忘れる(昼を食べたこと自体を忘れる)
ヒントがあれば思い出せるヒントがあっても思い出せない
忘れた自覚があり、心配している忘れた自覚が薄い、取り繕う、怒る
日常生活には支障がない支払いや契約など、生活に実害が出始める

お金で言うと、「電気代を払ったか忘れてヒヤッとした」は誰にでもあります。

でも「払っていないのに、払ったと言い張る」「督促状が来ても気にしない」は、少し質の違う変化です。

気になる場合の相談先は、かかりつけのお医者さん、もの忘れ外来、または地域包括支援センター(全国の市区町村にある、高齢者の総合相談窓口・無料)です。

「親を病院に連れて行くのが難しい」という場合も、まず家族だけで、地域包括支援センターに相談できます。

MCIという段階の話。そして、ここからがこのサイトの本題です

さっきの推計で、認知症(443万人)より多かったMCI(軽度認知障害)が約559万人

もの忘れなど軽い認知機能の低下はあるけれど、日常生活は自立していて、認知症とは診断されない状態のことです。

MCIは、適切な対応で状態がよくなる可能性もある段階とされています。だから早く気づいて受診することには、医療の面で大きな意味があります。

そして——ここからは医療ではなく、お金の制度の話です。

実は、認知機能の「グレーゾーン」には、医療とは別の時間制限があります。

親の財産を守るための備え(家族信託・任意後見・銀行の代理人届など)は、すべて「契約」です。契約には、内容を理解して判断できる力が必要です。 つまり、認知症が進んでからでは、どの備えも、もう契約できません。

その場合に何が起こるか。

本人の意思確認ができなくなった口座は、家族でも動かせなくなります(いわゆる口座凍結)。

アパートをお持ちなら、修繕も入居者との契約も売却も止まります。

施設や入院の費用は子の立て替えになり、唯一の解決策である成年後見制度には、月2万〜6万円の報酬がずっとかかります。

詳しくは別の記事に書きましたが、家族全体への影響は、数百万円から、ときに1,000万円を超えます。

「親が認知症になると、アパート経営は静かに止まる。預金凍結より怖い話」

つまり、チェックリストで「少し気になる」が付いた今この時期は、

  • 医療の面では:早めの受診で、進行をゆるやかにできるかもしれない時期
  • お金の面では:備えの契約が、まだ間に合う、最後の時期

「まだ大丈夫そう」は、裏返せば「まだ間に合う」です。逆ではありません。

今日からできる3つのこと

1. 記録を始める。 気になった出来事を、日付つきでメモしておく(スマホのメモで十分)。受診のとき、お医者さんに伝える材料になりますし、「気のせい」かどうかの判断にも役立ちます。

2. 親の「お金の地図」を、ゆるく把握する。 どの銀行に口座があるか、年金はどこに振り込まれるか、保険やアパートはどうなっているか。分かる範囲で構いません。通帳を見せろ、という話ではなく、雑談の中で少しずつで大丈夫です。いざというとき、家族が一番困るのは「どこに何があるか分からない」ことです。

3. お金の話を、攻めずに切り出す準備をする。 いきなり「認知症になったら困るから」と切り出すと、たいてい親は心を閉ざします(私は一度、これで失敗しました)。切り出し方・タイミング・言ってはいけない言葉は、会話例つきで別の記事にまとめました。

「家族信託は『説得』しない。決める権利を親に残したら、扉が開いた」

まとめ

  • お金まわりは、認知機能の変化が最初に出やすい場所。チェックリストは診断ではなく「相談の目安」
  • 「体験ごと忘れる」「自覚がなく取り繕う」「生活に実害」は、年相応のもの忘れと質が違うサイン
  • 相談先は、かかりつけ医・もの忘れ外来・地域包括支援センター(家族だけの相談もOK)
  • MCI〜初期の「グレーゾーン」は、医療の面でも、お金の備えの面でも、動ける最後の時期
  • 今日できるのは「記録」「お金の地図の把握」「切り出す準備」の3つ

最後に。この記事を読んで、不安が大きくなった方もいるかもしれません。でも、検索してここまで読んだ時点で、あなたは「なんとなく不安なだけの人」から「具体的に動ける人」に変わっています。チェックリストの結果がどうであれ、親御さんがお元気な「今」が、医療でもお金でも、一番打ち手の多いタイミングです。

※この記事は情報提供を目的としたもので、医学的な診断に代わるものではありません。健康面の心配があれば医療機関へ、介護やお金の困りごとは地域包括支援センターや専門家にご相談ください。

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